道路・鉄道・航空・船舶のスライダーを動かす
まず、一言でいうと
移動に時間がかかると、
仕事の範囲が少し狭くなる。
1日の長さは、誰にとっても24時間です。移動に使う時間が増えると、 同じ人・同じ車・同じ1日の中で、会える相手や運べる荷物が少し減ります。 その小さな変化が日本中で起きたら、地域の経済にはどれくらい影響するのか。 このアプリは、その可能性を順番に計算しています。
身近な例から考える
たとえば、町のパン屋さん
ここでの数字は仕組みを理解するための例です。実際のGDPをこの例だけで計算しているわけではありません。
あるパン屋さんが、店から学校までパンを届けるとします。今までは片道30分でした。 ところが道路の流れが遅くなり、片道33分かかるようになりました。
増えたのは1回につき、たった3分です。でも、1日に10往復するなら、 行きと帰りを合わせて60分増えます。配達員も車も増えていないので、 その1時間ぶん、最後の配達ができなくなるかもしれません。
こうした小さな時間の増加が、タクシー、工場、宅配、営業、観光などで積み重なると、 同じ1日でできる仕事の量が少し変わります。これが、交通の速さと経済をつなぐ出発点です。
待ち時間など、変わらない時間はそのまま残す
取引先、人材、お客さんへ届きやすいかを考える
都道府県ごとの経済規模に、小さな変化率を掛ける
計算の4ステップ
アプリの中では、こう考えます
難しい言葉を使わず、道路を遅くする場合で順番に見てみます。
速さを決める
まず「何が、何%変わるか」を入力する
道路だけを8%遅くする、鉄道を5%速くする、というように交通手段を別々に動かします。 ここでの「道路 −8%」は、制限速度を守った結果を実際に測った数字ではありません。もし全国の道路の平均的な移動速度が8%下がったら、という仮の条件です。
移動時間に直す
速さが8%下がっても、旅行全体が8%長くなるとは限らない
移動には、乗り物が走っている時間だけでなく、駅まで歩く時間、待つ時間、 荷物を積む時間などがあります。乗り物が速くなっても、この部分は短くなりません。 だからアプリは、速さで変わる時間だけを計算します。
たとえば飛行機の旅が合計210分でも、飛んでいるのは90分だけ。 飛行機が速くなっても、空港までの30分や待ち時間60分は短くなりません。
30分待つ
60分飛行
90分到着後
30分
仕事の範囲に直す
時間が増えると、同じ1日で届く範囲が少し狭くなる
30分で行けた取引先が33分先になると、取引先が消えるわけではありません。 でも、1日に回れる件数や、無理なく採用できる通勤範囲、当日配送できる範囲は少し狭くなります。 この「人・会社・お客さんへどれだけ届きやすいか」を、このアプリではアクセスと呼びます。
地域の生産額に直す
アクセスの変化を、ずっと小さな経済の変化へ置き換える
アクセスが1%下がったからといって、GRPも1%下がるとは考えません。 交通以外にも、働く人の数、技術、設備、教育など多くの要素があるからです。 中央の設定では、アクセスが約1%変わると、生産性は約0.043%変わるという 小さな反応を使います。
0.043は日本で新しく測った係数ではなく、英国の公的な交通評価を参考にした中央設定です。 アプリでは「低・中央・高」を切り替え、結果の幅を確認できます。
なぜ県ごとに違うのか
同じ速度変化でも、使う交通手段が違うから
現在のアプリは、47都道府県を7種類の地域タイプに分けた簡易モデルです。
鉄道をよく使う大都市
通勤や取引で鉄道への依存が大きい地域は、鉄道の速度を変えたときの影響を大きめに受けます。
道路が生活と物流を支える地域
車での通勤、営業、配送が中心の地域は、道路の速度変化の影響を大きめに受けます。
本州から離れた地域
遠い地域との移動に航空や船舶が欠かせない地域は、その2つの変化を大きめに受けます。
ただし、今の比率は都道府県ごとに実測した完成データではありません。 地域の特徴を大まかに表した仮の重みです。ここは今後、公的な人流・物流データで詳しくする必要があります。
実際の表示例
道路 −8%、東京なら
中央の感度を使った現在のモデルで、数字がどうつながるかを追います。
- 1
入力
道路の平均速度を 8% 下げるこれは「完全な制限速度遵守」の実測値ではなく、試すための条件です。 - 2
道路での移動時間
約 7.5% 長くなる積み下ろしなどの固定時間を残すため、単純な8.7%増とは少し違います。 - 3
東京のアクセス
約 4.5% 下がる東京は鉄道なども使うため、道路の変化がそのまま全体へは掛かりません。 - 4
東京のGRP
約 0.20%減 / 約0.225兆円減2022年度の基準GRP 113.7兆円に、生産性の変化率を掛けた試算です。
この例が示すのは「道路の平均速度が8%下がると仮定した場合」の結果です。 「全員が制限速度を守れば東京のGRPが必ず0.225兆円減る」という意味ではありません。
数字の裏付け
どこまでがデータで、どこからが仮定か
すべてを同じ「根拠」と呼ばず、現在使っている資料と、将来使いたい資料を分けています。
内閣府「県民経済計算」
各都道府県が1年間に生み出したモノやサービスの金額をそろえて比べる統計です。このアプリでは、2022年度の県内総生産を計算の出発点にしています。
使い道:都道府県ごとの経済規模英国運輸省「TAG Unit A2.4」
移動しやすさと生産性の関係を、交通政策の評価に使うための公的な手引きです。アクセスの弱まり方と、生産性への伝わり方の考え方を借りています。
使い道:アクセスと生産性の関係国土交通省「道路交通センサス」
道路ごとの交通量や実際の旅行速度を調べる公的調査です。将来、地域ごとの道路速度をもっと現実に近づけるために使える資料です。
使い道:道路の実際の速さ国土交通省「NITAS」
道路・鉄道・航空・船舶を使った移動時間や経路を調べる仕組みです。県と県のあいだの所要時間を詳しくするための候補です。
使い道:交通手段ごとの所要時間全国幹線旅客純流動調査
どの県からどの県へ、何人が、どの交通手段で移動したかを調べる資料です。人の移動をもっと正確にするために使えます。
使い道:人の移動全国貨物純流動調査
どんな荷物が、どこからどこへ、何で運ばれたかを調べる資料です。物流への影響をもっと正確にするために使えます。
使い道:荷物の移動結果の読み方
わかることと、まだわからないこと
この区別を守ると、シミュレーションを便利に、正直に使えます。
「もしも」の条件どうし
- 道路だけが遅くなった場合と、鉄道も速くなった場合
- 影響が大きく出やすい県と、小さく出やすい県
- 係数を低・中央・高にしたときの結果の幅
現実に必ず起きる金額
- 制限速度を全員が守ったとき、平均速度が何%下がるか
- 人が別の交通手段へ乗り換える割合
- 事故減少やCO₂削減まで含めた社会全体の得失
注意点
この試算には、6つの限界があります
数字を大きく見せるためではなく、どこから先は言い切れないかを明らかにしています。
「みんなが制限速度を守ったら何%遅くなるか」は、まだ測っていない
たとえば道路を−8%にするのは、利用者が試すための仮の条件です。完全に制限速度を守ったとき、本当に全国平均が8%下がると確認したわけではありません。
人や会社が引っ越すことまでは計算しない
速度が変わっても、人口や会社の場所はそのままだと考えます。何年もたった後に会社が便利な都市へ移る、といった変化は入っていません。
別の交通手段への乗り換えは計算しない
道路が遅くなれば鉄道を使う人が増えるかもしれませんが、このモデルでは移動回数や交通手段は変わらないと考えます。
事故・環境・安全の良さは、GDPと別に考える必要がある
速度を下げると事故や燃料消費が減る可能性があります。このアプリは経済の生産額だけを見るので、安全面の良さや悪さは表示していません。
日本専用の係数ではない
アクセスが生産性へ伝わる強さは、英国の公的な交通評価を参考にしています。日本で同じ関係が成り立つと証明された数字ではありません。
未来を当てる予言ではない
表示される金額は、条件を変えたらどうなるかを比べるためのシナリオです。政府の公式予測でも、実際に起きる金額の保証でもありません。
もっと詳しく知りたい人へ数式で確認する+
上で説明した4つの段階を、計算機に伝えるために記号で書いたものです。 数式を読めなくても、シミュレーターは使えます。
速度の変化を、移動時間の変化にする
qₘ = (1 − sₘ) + sₘ ÷ (1 + rₘ)rは速度の変化率、sは移動全体のうち速度で変わる部分、qは新しい移動時間が元の何倍かです。たとえば道路では、 走行速度で変わる部分を86%、積み下ろしなどを14%と仮定しています。
移動時間を、その県のアクセスにする
Aᵢ = Σ wᵢ,ₘ × qₘ⁻ᵅwはその県が各交通手段を使う重み、αは遠くなるほどつながりが 弱くなる速さです。現在の中央設定ではαを1.655にしています。
アクセスを、地域の生産額にする
ΔGRPᵢ = GRPᵢ,₀ × (Aᵢᵖ − 1)ρはアクセスの変化が生産性へ伝わる強さです。中央設定は0.043、 低は0.020、高は0.080です。全国値は、47都道府県の変化額を最後に足します。
交通手段ごとの、現在の仮定
これらは日本全国の全旅行を直接集計した確定値ではなく、モデルを動かすための代表値・仮定です。
TRY A SCENARIO